「子どもの自立を促す子育てと新聞の生かし方」日本メディアリテラシー協会 寺島絵里花さん【後編】

SNS等でデマやフェイクニュース(偽情報)が出回る中、情報を読み解き正しく活用する「メディアリテラシー」を子どもに身につけさせることが大切になっています。一般社団法人日本メディアリテラシー協会・代表理事の寺島絵里花さんに、子どもの自立を促す子育ての秘訣や、現在の仕事に就いたきっかけ、ご家庭での新聞の生かし方についてインタビューしました。


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コロナ禍「勉強の遅れ」より「家庭の温かさ」

―コロナで急に自宅学習になって悩まれている親御さんも多いと思います。子どもにどう寄り添ったらいいでしょうか?


寺島さん:子どものネット動画視聴やゲームをする時間が長くなり、親子でケンカするご家庭が多いと聞いています。

今って、子どもだけじゃなくて大人も非常事態じゃないですか。

大人も仕事や生活がどうなっていくのか不安の中で、リラックスできる環境があることが本当に大事なんだと思っています。


勉強の遅れが出ることを心配している方もいますけど、私は勉強の遅れは絶対取り戻せると、子どものことを信じています。

今は勉強よりも、家庭の温かさやイライラしない環境作りの方が大事なんじゃないかと思っています。


正論よりも子どもに寄り添える心の余裕を

先日、スマホ中毒、YouTube中毒にならない処方箋みたいな記事を読みましたが、そんな正論みんな分かっています。「それができないから苦しんでいる」って。

日本の女性は真面目だし、こうあらねばならないとか、他の子どもに遅れをとっちゃいけないとか、そういう責任感がある方が多いです。


大事なのは、正論を言ってきっちり物事を守ることではないと思います。

家族がボードゲームで遊ぶ時間を作るとか、子どもがYouTubeを見ていても、怒るのではなくて「何見ているの? 教えて。最近は何が流行っているの?」と子どもに聞ける心の余裕を大事にした方がいいと感じています。

「この子だったら大丈夫」って思える親子関係を作りたい

―普段、親子のコミュニケーションにおいて気をつけていることや、親御さんに伝えたいことはありますか?


寺島さん:ワーキングマザーが増えていますが、みんな必死です。

私も朝5時に起きて、お弁当作って、子ども3人はそれぞれ違う学校に行っているので一人ずつ朝送って、お家に帰って、掃除・洗濯・片付けをして、主人が家を出ていく。そこから私も仕事に行ったり、家で仕事したりする。朝の1時間、帰ってからの2時間くらいしか、子どもと一緒の時間がない生活を送っていたお母さんが多かったと思います。


今はテレワークなどで、24時間子どもと一緒にいる人が増えています。ぶつかることもたくさんありますが、子どもを見守ることと信じることが大事だと私は思っています。

「心の安全基地」が家の中にちゃんとあって、どんな状況になっても「この子だったら大丈夫」って思える親子関係を作りたいです。


「本当にこれで良かったのかな」と自信のなさで押しつぶされそうになっていました。

―そう思うようになったきっかけってありますか?


寺島さん:「相手を信じられない」ということは、裏を返せば自分の自信のなさですよね。私が自分に自信がなかった。

私は大学を卒業した年に結婚して、次の年にもう子育てに入っていました。周りは誰も結婚も出産もしていなかった。新卒入社した会社の景気も悪くて、戦後最大の赤字と言われていたので、会社を首になるのかなと周りはヒヤヒヤしていました。

ゆっくり産休を取れる状況ではなくて、産休から即切り上げなきゃ、という焦りと不安の中で、子育てしていました。

なので、自分の将来への不安もあって、ママ友達が周りにいない中で自分だけ子育てに入り、本当にこれで良かったのかな、という後悔みたいなものと自信のなさで押しつぶされそうになっていました。


夫の海外赴任でワンオペ・ワーママ生活

そういう思いがあったから、虐待する親になったらどうしようと当時は思っていました。

どうやったら子どもと仲良くなれるだろうと試行錯誤して、新聞を使っていろんな工夫をして、これでいいんだって、自分の中で落とし込んでいったところもあります。


長女が生後6、7か月の時、夫が中国に赴任になってワンオペ・ワーママ生活が始まりました。

夜も眠れないですよ。会社からクタクタに疲れて帰ってきて、そういう時に限って子どもが夜も寝てくれない。翌朝ボロボロのまま会社に行き、会社で寝そうになるみたいな(笑)

1か月に1回のペースで主人に会いに行き、主人は私に会社を辞めて来てほしいと言っていました。


世界のママと交流して「ちゃんと子育てしなきゃ」と気負っていた私の価値観ってミジンコレベルって思えた

第2子を妊娠した後、会社を辞めて主人の元へ行った時期がの上海が、ニューヨークを抜いて世界で一番外国人が多い都市になっていた。2011、12年くらいですね。

「上海ママ」という外国人のママ会のサイトを見つけて、日本人で初めて行ってみました。

そうしたら100か国ぐらいのママ友ができたんですけど、目から鱗だった。世界のママって私の常識とこんなに違うんだ。「ちゃんと子育てしなきゃ」と気負っていた私の価値観ってミジンコレベル、みたいに思えた。

例えば、私が咳をした時に、インド人のママがウォッカを出してくれた。インドでは、風邪を引いたら薬じゃなくてお酒だからと言われました。スペインでは、子どもの魔除け・厄除けに、生まれてすぐピアスする話を聞きました。

妊娠中にハムとパンを食べていたら、どこかの国のママに「ハムは加工品で細菌があるから、妊娠中はよくない」と言われたりもしました。

国によってこんなにも違うんだと感じたんです。


否定しないことが子どもの自立を促す

―すごいですね。100か国合わせたらタブーもなくなりそうですね。


寺島さん:そうなんです。隣の部屋にイタリア人が引っ越してきて、3人の子どものママでしたけど、そのママに私の常識が壊されました(笑)

そのママのすすめで、夏に1か月半くらいイタリアでアパートを借りて、2人の子どもを連れて生活してみたんです。

南イタリアのナポリの近くでしたけど、すごく暑い。子どもは外に出られないくらいの暑さです。

夕食は夜の21時半に集まる。23時に食べ終わり、夜中の公園で遊んで、25時にバイバイって帰るんですよ。


その後、もう細かなことを気にするのをやめよう、自分のことを信じようと思いました。小さなことを気にするのが、ばかばかしくなったというか。

それまでは、子どもは何時までに寝かさなきゃと思っていましたが、何時に寝てもいいと思うようになりました。子ども自身は疲れて毎日20時半に寝ています。

「寝なさい」「寝ないといけない」じゃなくて、「明日早いから寝るね、おやすみ」みたいな。


―自立していますね。


寺島さん:否定しない、義務化しないことがどれだけ子どもの自立を促すのか、それも学んだことですね。


ネットに触れる前に「新聞から良質な情報を得る習慣」を身につけてほしい

―メディアリテラシーの観点から親御さんに伝えたいことはありますか?


寺島さん:メディアリテラシー協会では、新聞を使って情報を読み解く、ということをよくやっています。

お母さんからすると、子どもに変な情報を与えたくない。では、まともな情報とは何かと聞かれますが、一番まともな情報は「子ども新聞」と答えています。


子ども新聞は子どもが読めることを一番に作られていて、事実を伝えることに徹しているからです。

子ども新聞には論説や社説がない。一般紙だとその新聞によるスタンスがあると思いますけど、子ども新聞はフラットだから好きですね。


なので、玉石混交の情報で溢れているネットに触れる前に、まず新聞を読んで良質な情報を得る習慣を身につけてほしいです。ネットメディアから入ると、その後に新聞を触れるという風にはいかないので。

情報には受け取る側、発信する側の2つの立場がありますが、情報を発信する側に回るとき、小学生なら新聞のスタイルにすると取り組みやすいです。