「子どもの自立を促す子育ての秘訣と新聞の生かし方」日本メディアリテラシー協会代表理事 寺島絵里花【前編】

SNS等でデマやフェイクニュース(偽情報)が出回る中、情報を読み解き正しく活用する「メディアリテラシー」を子どもに身につけさせることが大切になっています。一般社団法人日本メディアリテラシー協会・代表理事の寺島絵里花さんに、子どもの自立を促す子育ての秘訣や、現在の仕事に就いたきっかけ、ご家庭での新聞の生かし方についてインタビューしました。


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活動のきっかけは、ある悲しい出来事

ー現在、どのような活動をされていますか?


寺島さん:日本メディアリテラシー協会を2017年に立ち上げました。新聞が好きで、上智大学新聞学科で「新聞と子ども」「メディアと子ども」などをテーマに勉強していました。

今の活動のきっかけは、家庭教師をしていた学生時代の、ある教え子との出会いです。とても優秀で吹奏楽部の部長を務めるような子でした。

当時ネットで「前略プロフィール」という掲示板が流行っていて、その子が学校の子に悪口を書かれていたのを、本人から聞いたことがありました。

私はそういうことをテーマに研究していたので、その子から話を聞いて「本当にこういうことってあるんだな」ぐらいに、そのときは思っていたんです。

大学卒業後も、彼女とは姉妹のような関係が続いていて、私が長女を妊娠した時に彼女が「先生の赤ちゃんが生まれるのを、すごい楽しみにしてる」と言ってくれて「絶対遊びに来てね、病院に来てもいいよ」と話していたんです。


でも、新学期は子どもが一番学校に行きたくなくなる時期という風にも言われていますけど、その子も同じような状況でネット掲示板のこともあったのか、自分で命を断ってしまったということがありました。

それから「もうこういうことはなくしたい」という想いで、「子どもとメディア」をテーマにした仕事をやっていくために独立しました。


メディアリテラシー協会では、SNSでのいじめなどの相談にも乗っているのですが、この仕事を始めてからたくさん悲しい思いもしました。

お父さんお母さんもそうですし、子ども自身の傷付いた話もたくさん聞いてきて、どうやったら救えるだろうかということを、ブログでつづったりメディアでお話させていただいたりするようになりました。


家庭は子どもの心の安全基地に

日本メディアリテラシー協会をつくろうと思ったのは、その教え子がきっかけですが、3人の子育てをしていく中で実際の立ち上げには時間がかかりました。

また、2014年まで夫の仕事の関係で中国に駐在していました。中国はメディア規制が厳しくてフェイスブックやアメブロ、日本のSNSが全く使えなかったのが印象に残っています。


帰国後、「東京タワーの麓 〜賢い情報選択の取捨選択〜」というブログを始めました。

現在の活動は、主に全国の小学校でメディアリテラシーの話をしたり、企業のSNSトラブルの対処法について研修を実施したりしています。

―昔から新聞が好きだったそうですが、新聞のどこが好きですか?


寺島さん:アメリカや韓国で盛んですが、新聞記事を話題に家族で会話するファミリーフォーカスというコミュニケーションの手法があります。学校で新聞を教材として活用するNIE(Newspaper in Education)から生まれた取り組みです。ヨーロッパやアメリカの家族は食卓につく時間が長く、家族でじっくり過ごすイメージですけど、そういう時間に新聞に載っている時事問題や世の中のことについて家族で話し合うんです。私の実家がそうでした。

夕食時に2時間ぐらいかけて父、母、兄弟といろいろ話す家庭で育ちました。小学生新聞を読んでいたため、新聞への印象が良かったっていう理由もあります。

今あらためて思うのは、家庭の中に子どもの心の安全基地を作ってあげれば、子どもにSNSでいじめの問題等が起きても大丈夫ではないか。家庭に心の安全基地を作るには、少しでも家族で話す習慣作りが大事だと思っています。

私には新聞を活用して、家族の中で共通の話題を作りたいという想いがあります。


大人になって今さら聞けないことを子ども新聞で娘たちと一緒に学ぶ

―ご家庭では今、どのように新聞を活用されていますか?


寺島さん:うちは子ども新聞を複数購読しています。大人にも読みやすいですよ。

日々のニュースを見ていて、私にも分からない言葉が出てきますけど、子ども新聞はとても分かりやすく書いてあります。なんとなく読み飛ばしていた言葉が「あ、これってこういう意味だったんだ」みたいな(笑)

大人が今さら聞けないことや世の中の仕組みを、子ども新聞で娘たちと一緒に学び直しをしているイメージです。

あまりにもセンセーショナルな事件が起きたとき、子どもたちは怖がるだろうなと心配しました。テレビは映像で伝えるので、ちょっと心配で見せなかったことがあります。


そんなとき子ども新聞を見ると「こんな言葉遣いなら、センセーショナルにならずに冷静に事実を伝えられるな」と私自身の学びになったことがありました。子ども新聞は大人にも役立つのでお勧めですね。