子どもがいじめにあった時、親はどうすればいいか

「こども六法」著者が考える子どもへの接し方

子ども向けの法律本として大ヒットした「こども六法」(弘文堂)の著者で教育研究者の山崎聡一郎さん。子どもがいじめにあったとき親はどう接すればいいのか、書籍出版に至った経緯、新聞の活用法についてお聞きしました。



「こども六法」は、かつていじめにあった自分へのプレゼント


― 2019年8月20日の刊行以来、書店に足を運んでも売り切れなど、大ヒットですが、出版に至った経緯を教えてください。


山崎さん:私は小学校5年生の時にいじめに遭いました。いじめの内容は暴言や暴力という大人だったら犯罪になるものです。いじめの加害者に何かペナルティーがあったかというと、そんなことはなく「ごめんなさい」と言ったらその場で終わりでした。それでいじめが止まったら何でもなかったんでしょうけど、結局いじめは続きました。

 日本国憲法について学校で勉強していたので「自分はいま権利を侵害されている。このことに対して、結局のところ誰も何もしてくれない」という違和感がずっとありました。このことが原体験となって「こども六法」を作っていくことになりました。


大人からの反応大きく


― 出版後、どのような反響がありましたか?


山崎さん:「こども六法」は、いじめの被害に遭っていた当時の自分へのプレゼントとして作りました。そういう意味では独りよがりな動機でした。当時の自分に届けばいいなと思っていました。そのうち、自分みたいなケースは、多くの子どもには当てはまらないかもしれないが、全くいないこともないだろうと考えつつ執筆しました。子ども向けに作った本ですが、出版したら「自分がいじめられていた子供の時にこの本がほしかった」と大人からの声がたくさん寄せられたことが印象的です。


法律を面白いと思ってほしい


― どういう部分にこだわりましたか?


山崎さん:子どもに分かりやすい内容や表現というのは、それほど重視していません。私自身、中学生の時に六法全書を読んでおり、小学6年生の時に日本国憲法を読んでいました。多分、子どもは大人が思っている以上に読解力があるし、法律は原文でも読めます。そう考えていながら、「こども六法」という形にわざと変えたのは、子どもたちに「法律は面白い」と思ってほしかったからです。本に仕上げるには、どうしたらいいかをすごく考えました。読める読めないで言えば読めるけど、だからといって教科書を好き好んで読む子どもって、ほとんどいないと思うんですよね。

また、低年齢の子にも手に取ってもらえるように、イラストをふんだんに使い、親しみやすい本にすることを意識しました。

― 「こども六法」を手に取って、子どもに読ませているケースが多いそうですが。


山崎さん:いじめにあった時は、誰かに相談することが大事です。大人は子どもよりも多くの選択肢を持っています。例えば相談相手として、学校の担任の先生、ダメだったら学校の他の先生、教育委員会に持っていく、と様々な方法があります。子どもが悩みに直面した時、そうしたことも選択肢として思い浮かぶようになってほしいです。

もちろん、親に直接相談してもらえれば、それが一番いいけど、子どもは意外と親には相談しません。「普段から子どもとコミュニケーションを取って、些細な変化にも気づけるようにしましょう」といったアドバイスは、世の中にあふれています。しかし、実際にはそれができないケースがたくさんあって、子どもが追い詰められて亡くなってしまったということが起きています。そうした事態を防げるのであれば、親に相談してもらえなかったとしても、学校でも警察でも相談してもらって、そこから「お子さんがこんなことに悩んでいますよ」という連絡が来た方がましだと思うんですよ。

そういう選択を自分の子どもができるように普段から接して、「子ども六法」を活用してほしいです。


授業のやり方を解説する動画を作りたい


― 次に出版したい本や今後取り組みたいことはありますか?


山崎さん:もっと法律に興味を持ってほしいという思いが強いので、「こども六法」を教材とした授業のモデルケースを示したいです。「こども六法」は様々な問題を網羅的に扱っているので、この一冊をポンと学校の先生に渡しても、授業するのは難しいでしょう。授業の組み立て方が分かるような動画を作ってみたいですね。

新聞は最も感度が高いメディア


― 山崎さんは普段、新聞をどのように読んでいますか?


山崎さん:新聞は研究の材料として読みます。例えばいじめの事件を調べようとした時、大学の新聞記事データベース使ったり、縮刷版を見たりします。各紙がどのようなスタンスで、事件をどのように報じているのかといったことを分析すると発見が多くあります。

あるいじめの事件を追いかけた時、担任の先生や学校の責任を追及する視点の報道が多かったのですが、学校や先生を擁護する視点の新聞記事がないかなと思って新聞を読み比べたことがありました。亡くなった生徒は先生に「いじめで死のうと思っている」と相談していたのですが、対応が遅れてしまった事件です。相談できる関係にあったという意味では、先生と生徒の信頼関係はできていたと言えるのではないか、現に各紙読み比べると、そうした視点に触れていた記事が見つかりました。比較読みは、新聞はそれぞれ違うということがよく分かるのでおすすめです。

これまで各メディアから取材を受けてみて、メディアの中で最も感度が高いのは新聞だと感じています。新聞は何もないところから、火の手が上がる前に取材に来るイメージです。

「こども六法」書籍化に向けてクラウドファンディングを開始した時、ある新聞が取材に来ていただきました。当時は、その新聞でしか取り上げられませんでした。

メディアリテラシーの力、複数紙の読み比べで


― 新聞のおすすめ活用法はありますか?


山崎さん:小中学校の時、調べた内容を新聞のスタイルでまとめることを好きでよくやっていました。新聞を読むという点で言うと、メディアリテラシー教育での活用が一番良いと思います。各紙読み比べると同じ出来事でも、異なった視点で取り上げられていることがよく分かるし、その取り上げ方でもその記事を読んでどう感じたかなど、親子で会話してみるといろんな発見があると思います。

日本人は、メディアは中立であるべきだと考えている人が多いのではないかと感じますが、それは危うい考えだと思っています。新聞は報道機関ですが、言論機関でもあるので、その新聞の言いたいこともある。「メディアは偏っている」という前提で見たほうが面白いし、自分で考えることにつながります。「偏っている」というのは事実を捻じ曲げて偏向報道しているという意味ではありません。ある出来事を記事にするにも、多くの情報の中から伝えるために情報を取捨選択しているわけですから、絶対的な中立を求めるのは筋が違う。それが良い悪いかを言っているわけではないです。そうしたものという前提で読んだほうが面白いし、客観的な視点で読むことができると思います。

そうした意味で、複数の新聞を読み比べると、とても面白いです。「読む力」を身につけておけば、SNS等でフェイクニュースが流れてきた時に、真に受けずに「あれっ」と立ち止まって考えることができるはずです。

例えば気にくわないことが新聞に書いてあったら、投書してみることをおすすめします。新聞は一つの意見の在り方を提示していることに対して反論できます。仮に自分の投書が載った時、新聞は文章のプロが編集しているので、おそらく自分が書いたそのままの文章が載るわけではなく、読者が理解しやすいように文章を手直ししてくれます。そうした視点で、家庭で新聞を活用してみるといいかもしれません。


― 新聞への要望はありますか?


山崎さん:気軽に読み比べできたら面白いんじゃないでしょうか。1紙を定期購読したら、さらにもう1紙購読する人ってあまりいないと思います。テレビ番組で、新聞の1面記事を紹介するコーナーがありますが、各紙の1面を見比べるサービスがあれば面白いです。

新聞を手にとって親子でディスカッションを


― 親に伝えたいことはありますか?


山崎さん:私が子どもの頃は、新聞はテレビ欄を見るためにあったと思います。今はそういう時代ではなくなったので、その時々で世の中で起きているホットな出来事は何なのか、そこに興味がいっているのではないでしょうか。SNSやキュレーションアプリは、自分の興味関心に合ったニュースを自動的に収集してくれて便利ですけど、自分の興味のあるニュースしか流れてこない状況は、情報の分断を生みます。新聞やテレビなどマスメディアに触れていないと、今世の中で起きていることの中で、何が重要なのかを見誤ります。ネットニュースだけ、という情報収集には、そうした怖さを秘めていることを認識した方がよいです。

新聞で大きく報じられているニュースを、親と子どもでディスカッションしてみると面白いのでおすすめします。新聞の活用ってそういうことかなと思います。