『大家さんと僕』の作者、矢部太郎さんに聞く新聞の魅力
「子どもの頃は、『たろう新聞』を作っていました」
芸人・漫画家 矢部太郎さん
矢部太郎さんは、芸人や俳優として活躍する傍ら、2017年『大家さんと僕』で漫画家デビュー。大家さんと矢部さんのほのぼのとした日常や、次第に家族のように心を通わせていく様に、ほっこりと温かい気持ちにさせられたり、時にしんみりと考えさせられたり…その独自の世界観の虜になってしまった読者も多いことでしょう。そんな矢部さんに、新聞との関わりについて話を聞きました。本インタビューに先立ち、新聞の思い出を漫画に描き下ろしていただきました。
新聞の魅力はバラバラにして読めるところ
── 新聞の思い出を素敵な漫画にしていただきありがとうございました。小学生の頃から新聞にふれていたのですね。一般紙は難しくなかったですか?
子どもの頃、新聞は朝の楽しみでした。本当は裏のテレビ欄から漫画へ…といきたかったんですけど、大人のマネをして1面からで読んでいましたね(笑)。株価のページは飛ばして、スポーツや地域の話が出ているページを読んで、すごい速さで漫画のページまでいっていた気がします(笑)。
── 新聞のどこが魅力的でしたか?
同じものを家族みんなで読めるところです。バラバラにして、「ここだけちょうだい」というように読んだり。でも、今回この取材を受けるにあたって、周りに「新聞の魅力ってバラバラにして読めるところですよね?」と話したら、全然共感してもらえませんでした。新聞は、とじられていないじゃないですか? だから、みんなそういう風に読んでいるものとばかり思っていたのでビックリしました。……あ! でも、図書館や喫茶店にいくと、とじてあってバラバラにできないですものね。基本的にバラバラにして読まないものなんですね(苦笑)。
── 面白い視点だと思います。バラバラにすると量も減るから、子どもでも負担なく読めそうですね。
他にも、新聞は切り抜いて情報を共有できるところが魅力だと思っています。僕の父は、今でも面白い記事があると切り抜いて送ってきてくれるんですよ。僕も子どもの頃は、西武ライオンズのファンだったので野球の記事を集めてスクラップブックにしていました。
── 同じテーマの切り抜きを続けると、ひとつのコレクションになりますね。
『大家さんと僕』の漫画にも描きましたが、大家さんが僕の漫画を見た時に、「こういうかわいい絵にしてほしいわ」と、お財布から動物の絵が描かれた新聞の切り抜きを見せてくれたことがありました。きっと、僕に見せようと思って切り抜いてくれたんでしょうね。誰かにこれを見せたいなって思った時に、新聞は気軽に切り抜けるのでいいですよね。
家族や学校のことをネタに『たろう新聞』
── 新聞を参考にして、ご自分で『たろうしんぶん』というものを作っていたのですね。
父が子どもの絵画工作教室をやっていて、そこで「みんなで〇〇新聞を作ろう!」というのがあって。小学校に入った時に、父から「文字を覚えたんだからやってごらん」と言われ、僕もやることになったんです。
── ご自分で新聞を作ってみて、いかがでしたか?
新聞って、作文と違って自分のことじゃなくて、世界のことやニュースを書くんだな、と知りました。小学生の世界は家と学校くらいなので、家の出来事を家族に聞いて作っていました。
── 何か工夫されましたか?
ニュースにも順番があるということを新聞から知りました。日本語の目線の誘導だと思うんですけど、右上から左下へ読んでほしい順番に並んでいて。大きいニュースほど大きな見出しになるから、すごく大きな見出しになっている時は、それだけ大きなニュースだということがビジュアルでわかりますよね。僕も、大ニュース、例えば「お姉ちゃんが高校に入学しました!」みたいなのは上の方に大きな見出しにして、「お父さんの畑でカボチャが取れました」みたいなのは下の方に小さくしたりしていましたね。
── ニュースに優先順位をつけていたんですね。
ネットニュースは便利だけど、ニュースのサイズ感がわかりにくいなと思っています。見出しの大きさは同じだし、多分上にきているニュースが大事なのでしょうけど、新しさもあるから、ちょっとわかりにくいかな、と。その点、新聞は一目瞭然(りょうぜん)ですね。
── ご家族や親戚の方が読んでいたそうですが、反応はいかがでしたか?
「おもしろかったよ」などと感想をもらうとうれしかったですね。読者がいると、「次はもっとおもしろくしよう!」とやる気になりましたね。従妹が「4コマ漫画書いたから新聞に載せて」と言ってきてそれを載せたり、父の仕事で宣伝したいことがあるから、と広告欄を作って載せたりもしていました。2年生の時には、クラスの新聞も作りました。教室に張られて、みんな読んでくれてうれしかったですね。
新聞をとって大家さんとの共通の会話も増えた
── 今はデジタルで新聞を購読しているとのことですが、大人になって改めて新聞をとろうと思ったきっかけはありますか?
大家さんのところに引っ越して、大家さんから「何新聞を読んでいらっしゃるの?」と普通に聞かれました。新聞をとってないという選択肢はないんだな、と(汗)。それで、新聞をとってみたら、大家さんと共通の会話がたくさんできたんです。「新聞でご覧になった?」という風に。
── 大家さんは、矢部さんにいろいろなご縁を運んでくださったのですね。
はい、本当にそうですね。新聞は他にも、書評欄などネットショッピングサイトのおすすめでは出てこないような本が紹介されていて興味を持ったり。文化欄の展覧会や演劇の紹介も、すごくしっかり書いてくれていますよね。それを見ていこうかな、と思うことも多いです。自分の興味がない分野も満遍なく目に入ってくるのでいろいろなきっかけをもらえます。
── お仕事にもいい影響がありそうですね。そのほかに、新聞を読んでいてよかったことはありますか?
僕、大学に小論文で受かったんですよ! 志望校に落ちちゃったんですけど、センター試験の結果が良かったから小論文で受けられる学校を受けて。小論文はそれまで1回も書いたことがなくて、試験で初めて書いたんです! 小論文対策は新聞を読むのが良いってよく聞くから、きっと知らないうちに役立っていたんでしょうね。あの時大学に受かってなかったら、今頃どうなっていたことか…。え? 論文の内容ですか? それが何を書いたかはすっかり忘れてしまいました。
天気図で、パラパラ漫画を作ってみては?
── ところで矢部さんの子どもの頃のように、子どもも新聞を楽しむために何かこつはありますか?
そうですね…。そういえば子どもの頃、天気図も切り抜いていました! 天気図を並べると、パラパラ漫画みたいに低気圧が動いているのがわかったりして面白いんですよ。天気が好きな小学生は、そんなことやってみたらどうでしょう。パラパラ漫画にして、「台風くるかな? くるかな? あ、こなかった」みたいに(笑)。
── 天気図でパラパラ漫画とはおもしろい発想ですね!
あとは、あまり褒められた遊びじゃないかもしれませんが、新聞に載っている人の顔を切り抜いてコラージュして遊んでいました。例えば、マラソンのゴールの写真を顔だけ違う人にしたりして。でも、これはあんまりいい使い方じゃないですね(苦笑)。雑誌や本は、切り抜くとお父さんとかお母さんに怒られそうだけど、新聞は気軽に切り抜けるので、何かそういった遊びも広がるといいのかなと思っています。
0コメント